9.信託をSPVとすることのメリット

手続きが柔軟で、組成コストが軽減できる

流動化・証券化のSPVにSPCを使用する場合には、SPC倒産の影響を排除するため、当該SPCの株主を英米法に基づくチャリタブルトラスト(慈善信託)等とするケースがあります。このような場合には、SPCの設立に関する手続に加え、SPCの株主などによる議決権行使により、事務手続が煩雑となり、管理の手間がかかります。さらに、SPCが自己募集及び自己運用を行うことは原則として金融商品取引業に該当することから、同法に基づく登録を受けなければならないなど、多大なコストを必要とします。

一方、信託をSPVとする場合では、信託会社との信託契約により柔軟なスキーム構築が可能であるとともに、コストも小さくなるのが一般的です。これは、信託受益権の売買等を業として行う際に、信託会社を「みなし金融商品取引業者化」したり、信託会社が信託勘定で行う信託財産の運用にかかる金融商品取引法の適用から除外されるなど、規制のコストが削減されることによります。こうした手間やコストは資金調達者の調達コストの上昇や、資金運用者の運用利回りの低下をもたらす要因であることから、信託が選ばれる一因となっています。

課税透明性の高さ

所得税法、法人税法においては、「資産または事業から生ずる収益の法律上一見して帰属するとみられる者が単なる名義人であって、実際には収益を享受しない場合に、その名義人以外の者が収益を実際に享受するときには、その収益はその者に帰属するものとして実質所得者に対して課税する」ものとされています。これを実質所得者課税の原則といいます。

この原則により一部の信託で例外はあるものの、信託財産に属する資産・負債及び信託財産に帰せられる収益・費用は、現に権利を有する受益者が存在する場合には、その受益者に税法が適用されます。また、受益者が存在せず、委託者等が信託の変更権限や信託財産の受給権を有している場合には、その委託者等を受益者とみなして税法を適用することとしています(受益者課税の原則)。

このように、信託では2重課税の問題が生じないため、効率的なキャッシュフローを構成することができます。なお、新信託法により、多様な信託の類型が可能となったことを踏まえ、平成19年度税制改正において、法人税回避への対応として一部受益者課税の原則の例外が設けられています(たとえば、法人課税信託など)。